吐きたくなる様な快楽を味わいに/阿佐ヶ谷スパイダース「はたらくおとこ」観劇レビュー
阿佐ヶ谷スパイダース「はたらくおとこ」舞台写真 撮影:引地信彦
吐きたくなる様な快楽を味わいに/阿佐ヶ谷スパイダース「はたらくおとこ」観劇レビュー
ラーメンを食べに行ってドロドロのスープ―いや、スープっていうか固形物をこしただけのようなドゥォロッドゥォロ~っとした“ソレ”を食べて、しばらくはいらないと思ってたはずなのに、気がつけばソレを欲してしまう感覚わかります? そう、12年前『はたらくおとこ』の初演を観劇し、すんげー重たい気持ちになっていたはずなのに、ある意味トラウマになるぐらい不快にさせられたはずなのに、再演が始まると知り早々に劇場に向かってしまった、劇団☆骸骨ストリッパーのかみざとです!
この物語、茅ケ崎社長(中村まこと)は、ラーメンスープを求めるように“幻のリンゴ”の味を求めて(かどうかはわかりませんが)、自ら農園を始めたのにうまくいかず閉鎖。夢は散り、事務所でたたずむ従業員。しんしんと降りしきる雪の中、始まります。
12年間の進化
阿佐ヶ谷スパイダース「はたらくおとこ」舞台写真 撮影:引地信彦
自分がこれまでに観た舞台は何百本とあって、正直名前を聞いても思い出せないような作品がある中で、『はたらくおとこ』は幾つものシーンを憶えている。微かな記憶を呼び起こしつつ比較してみる。
演出については、基本的な雰囲気は変わらなかった。大きな違いは、初演ではサイケデリックな演出を交えていた印象があり、時間経過の表現とシーンの切り替えが大胆で目から鱗が落ちた。では今回はというと、まさかその部分が削がれて(「そんなバカな!」とこの時は叫んでました)リアリティを追求し、親切な演出へと変化していた。さて、その効果は―
出演者はほぼ前回と同じ。にも関わらず、今回キャストの名前を見た時に“笑わせてくれる役者さん揃いだ”と感じたのは、みなさまの活躍が自分の中で浸透していたからでしょう。(劇団☆新感線によく出ている池田成志さんなんか、叫んだだけで笑いそうになってしまう。)同じような先入観をお持ちの方もいると思いますが、そういう人は特にシリアスな芝居を観る心積もりでいた方がいいかも。序盤からちょいちょい小ネタは挟んでくるものの、結構リアルな芝居。
初演よりも演者が自然で、気がつけば役の持つ感性に違和感なく呑まれていました。同時に阿佐ヶ谷スパイダース(ASP)らしいブラックなネタや狂気のズレが笑いを生んでいきます。それを笑えるか笑えないかは、あなた次第…ちなみに自分は、非日常感を客観的に観て爆笑してました。
心理に迫るホラー作品
阿佐ヶ谷スパイダース「はたらくおとこ」舞台写真 撮影:引地信彦
人って自分勝手に生きると恐いなぁ、とASPの作品を見る度に感じる。今回の『はたらくおとこ』はそれを助長するように、耳をつくようなギター音で頭を締め付けてくるし、蛍光灯をチカチカさせて不安にさせるし、途中で人が刺されもすれば、体から血を噴いたりと、ホラー映画そのもの(笑)。
組合の人が襲ってくるところも、自分が暴力を受けているような痛さが伝わるし、伊達暁さんの登場シーンなんかえらいビックリさせられる。(ここの演出は前回もあり、楽しみにしていたシーンなので拍手喝采でした!)
物語が進み役者の熱も上がってきた頃に、長塚圭史さんが登場します。長塚さんは役をドライ(現実的)に演じていて、いつの間にか狂った世界観に囚われ始めていた観客を、一度現実に戻して、そのおかしさを再度認識させてくれる。いつの間にか自分自身が目の前で起こる世界を受け入れているのも恐怖を感じる。
最大の苦しみがラストに押し寄せる
まぁとにかく眉間に皺がよります!(笑)。終盤は終始渋い顔のまま。自分が女だったら終演後に化粧室でメイク直しに行っちゃう。
人間、想像することがあっても直面することがないものって沢山あるとは思います。今回はそれが体に悪影響を与える薬品。それを終盤10分以上もかけて表現する様はホントに気分が悪い。臭わないはずなのに舞台上からは悪臭が漂い、手に力が入り呼吸があがり、しまいにゃ役者といっしょに苦しくなる感覚は舞台ならでは。あぁ、これが自分の観たかった数年前の記憶…あぁ、なんて不快(笑)
ただ当時と違い、最後には目頭が熱くなった。なぜか? それは初演とは変えたリアリティを帯びた演出にあった。ん~、なるほど!
久しぶりにASPを観られて大満足! 観劇に行く際はぜひ“満腹状態”では行かないことをおすすめします。
(文:かみざともりひと)
阿佐ヶ谷スパイダース 舞台「はたらくおとこ」
【作・演出】長塚圭史
【出演】
池田成志 中村まこと 松村武 池田鉄洋 富岡晃一郎 北浦愛 中山祐一朗 伊達暁 長塚圭史
2016年11月3日(木・祝)~11月20日(日)/東京・本多劇場
2016年11月23日(水・祝)/福岡・キャナルシティ劇場
2016年11月25日(金)/広島・JMSアステールプラザ 中ホール
2016年12月2日(金)~3日(土)/大阪・松下IMPホール
2016年12月8日(木)/名古屋・名古屋市青少年文化センター アートピアホール
2016年12月14日(水)/盛岡・盛岡劇場 メインホール
2016年12月16日(金)/仙台・電力ホール