震災後の日本の在り方は/長塚圭史×古田新太×多部未華子 舞台「ツインズ」観劇レビュー
【!】このレビューにはネタバレ箇所が含まれています。あらかじめご了承ください。
招かれざる客によって脅かされる家族
阿佐ヶ谷スパイダースを主宰する長塚圭史が、2002年『マイロックンロールスター』、2005年『LAST SHOW』、2008年の『sisters』に続き、パルコ製作としては今回で4度目の作品を上演中だ。「幻想」と化した家族の現状に「日本の安全神話」の「崩壊」を重ね合わせ、その上で「仄かな希望」も提示したいという。
安心安全なはずの家族の崩壊を「寓話」として描いているので、物語は決して追いかけやすいものではない。
海産物に恵まれた、美しい海辺の家。そこを実家とする次男のハルキ(古田新太)が、娘のイラ(多部未華子)を連れて東京から戻ってくる。目的は、イラをオーストラリアへ行かせる渡航費を無心するためだ。実家を守る長男のリュウゾウ(吉田鋼太郎)、亡き長女エリコの息子・タクト(葉山奨之)に、タクトの双子の子供を出産したユキ(石橋けい)。それにこの家の家事手伝いとして住み込んでいるローラ(りょう)と、その連れ合いのトム(中山祐一郎)。
それまで穏やかに暮らしていた彼らの生活は、ハルキの登場によって不穏な空気が流れる。
作品の背景は原発事故後の日本
これは物語のほんの導入である。ここから、それぞれに秘密を持つ人物が複雑に絡み合い、物語は一筋縄ではつかめない展開を見せる。
例えば、リュウゾウが海水を飲み続けるのはなぜか?
冗談まじりに人魚と噂されるローラの存在とは?
双子の子供をなかなか愛せず、ユキと微妙な関係にあるタクトの悩みとは?
そして、今や父と暮らすイラが背負っている背景とは?
登場人物の会話が噛み合わないために、物語が展開しそうになるところではぐらかされてしまう。そこには、複雑でしかも壊れている家族や共同体を描くには、分かりやすい物語など書けるはずがない、という長塚の考えが反映されている。
観る上での手引きとなる事柄を、ひとつだけ言っておこう。本作には海産物を始め、いろんな料理が登場する。食事のシーンもある。だが、ハルキとタクトは、家族から食べることを勧められても拒む。イラが食事しようとすると、ハルキは激昂して止めるのだ。
なぜか?そこには、原発事故が関係していることが読み取れる。事故によって海水が汚染されているために、彼らは海産物を食べないのだ。そうなると、イラのオーストラリア行きの目的は、日本からの避難ということになる。
ハルキとタクトの危機感をよそに、他の家族は食物汚染など気にしない。トムが腕を振るう海産物料理を美味しそうに頬張る。危険なんてどこ吹く風で楽しそうに暮らす家族が、どのように変化していくのか。震災後の日本を頭の片隅において観劇すれば、見やすくなるかもしれない。
回転舞台の装置とバイオレンスシーン
装置は周り舞台になっていて、回転することでリビング、ハルキの部屋、海辺などにスムーズに転換。道具も必要最小限だから、スタイリッシュな空間造りになっている。回転舞台であることで、家は海にポツンと浮かぶ島のような印象を与える。そのことが、実は危険な海に囲まれた家族という劇内容を強調する。
役者陣については、やはり古田新太と吉田鋼太郎が圧巻。のっけからバットを手にして登場し、理不尽な要求を突きつけるハルキの異様さを、古田は怪演する。そんなハルキを常識的にいさめようとする、吉田演じるリュウゾウとの兄弟喧嘩は迫力があり見物だ。ついにはバットでリュウゾウを殴るシーンなど、長塚作品にたびたび登場するバイオレンスなシーンも健在。基本的には夢と幻想が入り交じった抑制的な内容だが、そこに暴力シーンがポンと放り込まれるとインパクトは大だ。
古田と中山祐一郎が見せるコンビプレーでの笑いは、舞台の清涼剤となる。狂気のハルキと対等に渡り合う多部未華子、終始ミステリアスで神秘的ですらあるりょう、未来の日本を背負う子供を生んだ石橋けいと葉山将之の歳の差カップル。心理的に奥深い登場人物を、役者たちは具現化しようと努める。そんな役者たちの演技を見ていると、観客も頭をフル回転させて、物語を再構築したくなるのではないだろうか。
本作は2015年12月30日までの東京 パルコ劇場での公演の後、来年1月には大阪、北九州、長岡、松本を巡演する。
(文:藤原央登)
公演情報
PARCO PRODUCE 舞台「ツインズ」
【作・演出】長塚圭史
【出演】古田新太 多部未華子 りょう 石橋けい 葉山奨之
中山祐一朗 吉田鋼太郎
2015年12月6日 (日) ~12月30日 (水) /東京・パルコ劇場
2016年1月6日 (水) ~1月11日 (月) /大阪・森ノ宮ピロティホール
2016年1月16日 (土) ~1月17日 (日) /九州・北九州芸術劇場 大ホール
2016年1月23日 (土) ~1月24日 (日) /長岡・長岡市立劇場・大ホール
2016年1月30日 (土) ~1月31日 (日) /まつもと市民芸術館・主ホール