詩森ろばの新作 serial number「すこたん!」は、ふたりの男性が出会い、恋をし、愛の意味を知る30年の物語。10月28日から中野ザ・ポケットにて上演
serial number「すこたん!」 serial numberによる舞台「すこたん!」が10月28日(水)から東京・中野ザ・ポケットで上演される。 2020年に上演中止になってしまった作品「すこたん!」は、1994年「すこたん企画」としてふたりのゲイ男性が設立し、かたちを変えながら、現在も活動しつづけているセクシャルマイノリティ支援団体「すこたんソーシャルサービス」の設立者で長年のパートナー伊藤悟さんと簗瀬竜太さんをモデルに、20年来の知人でもある詩森ろばが書き下ろす新作のハズ、だった。 コロナ禍の中、作品を書きあげるも上演が叶わなかったからだ。2021年度への延期を決めた後もおふたりと対話を続け、いちから書き直し、まったく違う作品として生まれ変わった。 パートナーシップ制度等は整えられつつあるが、いまだ変わらない現状もあり、しかしそのなかで、ひととひとが寄り添い合うことだけがわたしたちを生かしてくれること。その愛おしさと痛みを物語のかたちで届ける。
STORY
ネットもアプリもなかった1990年、ゲイ雑誌の通信欄を通じて知り合ったサトルとリュウタ。誰にでも起こりうるような家族や自身の抱える問題に直面しながら、ゲイバイ男性の支援団体「すこたん企画」を立ち上げ、活動を続けてきたふたりの出会いからこれまでの30年の軌跡を軸に、彼らと関わった8人の男性たちのそれぞれのものがたり。
詩森ろば(作・演出)
「Personal is political」はフェミニズムから生まれた言葉で「個人的なことは政治的なこと」という意味です。個人が抱える生きづらさは社会的な問題を孕んでいるということで、性的マイノリティの方々のスローガンとしても掲げられてきました。わたしは、この言葉をいつも創作の礎にしてきました。とは言え、「無知」であるがゆえに偏見に塗れるという時期がわたしにも長くありました。いまもそれとまったく無縁ではないと思います。全人口におけるパーセンテージを考えれば、クラスにひとりかふたりはいたはずの性的マイノリティのともだち。
当時のわたしはその可能性すら考えたことはありませんでした。劇団に当事者の女性が入ってきて、俄かにわたしのなかでその存在は現実となりました。彼女と演劇を創る中で、セクシャリティに関するお芝居を書きたいと考えるようになり、勉強会の講師をしていただいたのが当時「すこたん企画」という名前で活動していた伊藤悟さんと簗瀬竜太さんでした。性の多様性なんていまは訳知り顔で使っている言葉も、わたしはそのときおふたりに教えてもらったのです。
以上は、2020 年の「すこたん!」のチラシに書いた文章の抜粋です。この時すでにコロナ禍は起こっていたのですが、ここまで複雑に長期化するとはまだ誰も考えていなかった。でもそこから一年余の間に「Personal is political」は、すべてのひとにとっての切実な言葉となったように思います。
2020 年にはいちど書きあがっていた「すこたん!」。それを巡ってモデルのおふたりとわたしの間で、気持ちの齟齬を巡るちょっとした問題も起こりました。本音で話し、追加取材をさせていただきながらゼロベースで書き直し、ゆっくりと 2021 年版の「すこたん!」がかたちになっていきました。とても愛しい物語になるのではないかという予感がします。そして、おふたりとの時間は、相変わらず楽しく、辛い時間を生きるわたしを生かしてくれました。
これは、男同士の恋が、圧倒的な対話を経て、人生を創り上げていく 30 年の話であると同時に、わたしの数少ない大切な大切な友人ついての物語です。
本作は10月28日(水)から東京・中野ザ・ポケットで上演される。
詳細は公式サイトで。
(文・エントレ編集部)