3年の時を経て、エドガーが蘇った。明日海りお主演、ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』観劇レビュー
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 撮影:岸隆子(Studio Elenish)
3年の時を経て、エドガーが蘇った。明日海りお主演、ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』観劇レビュー
1972年に「別冊少女コミック」で発表され、今なお色あせることなく愛され続けている萩尾望都の伝説的名作「ポーの一族」。永遠に生きる吸血鬼バンパネラ一族の、美しくも切ない運命の物語は、読む人たちに多大な衝撃を与えました。
2018年、小池修一郎の脚本・演出のもと宝塚歌劇団花組で初演。マンガから飛び出して来たような眩しすぎる再現度で大好評のままに幕をおろした傑作ミュージカルが、宝塚版で主人公のエドガー・ポーツネルを演じた明日海りおと共に3年の時を経て新たに蘇ります!
※このレビューは、1月16日(土)に行われたライブ配信を見て執筆しました。
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 撮影:岸隆子(Studio Elenish)
極上の美、永遠の命。
薔薇を持って歌う少年の、吸い込まれてしまいそうな不思議な美しさに見とれているうちに語られる、バンパネラ一族の歴史。重厚感のあるセットや衣装、幻想的な世界が目の前に現れ、開幕早々、グッと心をつかまれるようなゾクゾク感がありました。そんな気持ちを加速させるのは、オーケストラの皆さんによる「生演奏」の力! 時に大迫力に、時に優しく流れる音が、私たちを物語の世界に誘ってくれます。劇場中にズシンっと響き渡る生演奏の音を聴くと、やはり血がたぎりますね!
物語は、森の奥に捨てられた幼いエドガーと妹のメリーベルが、通りかかかった老ハンナ(涼風真世)に拾われて始まります。彼女のもとですくすくと成長していく兄妹。兄のエドガーを演じるのは、高い演技力と類い稀なるスター性で人気を博した、元花組トップスター・明日海りおさん。初演からたった3年、されど3年。在団当時からパッと目をひく華のある方でしたが、あまりにも変わらなすぎて怖い(笑)。今回は“男女混合”の舞台ですが、男性陣の中にいても何の違和感もないくらい、なんなら誰よりも“男の子”に見えるから不思議です。
妹のメリーベル役は、元星組トップ娘役・綺咲愛里さん。とにかく可愛い!! お人形さんが生を得て動き出したかのようなキュートさで、兄を心から信頼する無邪気な笑顔が物語の未来を知っているほど儚く見えます。
ある日、薔薇に囲まれた館で“婚約式”が行われます。フランク・ポーツネル男爵(小西遼生)が、恋人・シーラ(夢咲ねね)を一族に迎え入れるための儀式。「来てはダメ」だと言われたエドガーですが、「ダメ」と言われると逆に気になるもの。その儀式をのぞき見したことで禁断のポーの一族の秘密を知ってしまい、望まずして自らも一族に加えられることに。
怪しい色気に包まれた伯爵と、とても真っ直ぐに彼を愛するシーラ。(小西さんと、元星組トップ娘役・夢咲さんの並びは“艶”の塊!)
バンパネラとしての宿命を受け入れられず、「(一族に加わったことを)後悔してないの!?」と問うエドガーに対して、「なぜ?」と返すシーラがビー玉のようにキレイな瞳をしていたのが印象的でした。
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 撮影:岸隆子(Studio Elenish)
見た目は少年のまま中身は成長し、どこか物事を達観して見るような冷たさを放つエドガー。劇中で歌うソロナンバー「哀しみのバンパネラ」から、幾年の時の中で出会いと別れを繰り返し、でも自分は永遠の時を生きる “孤独”が痛いほど伝わってきます。
そのほか、宝塚版からいくつかナンバーも増え、バンパネラとして生きるエドガーの苦悩や葛藤が、より濃く描かれていたように思いました。
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 撮影:岸隆子(Studio Elenish)
そんなエドガーと宿命的な出会いを果たす、町一番の名家の跡取り息子、アラン・トワイライトを演じるのは、本作がミュージカル初挑戦となる千葉雄大さん。複雑な家庭環境で育ったことからくるワガママさや、ふと見せる寂しそうな瞳など、繊細な感情を丁寧に表現。勝気に出ても常に冷静な態度で接してくるエドガーに必死で対抗しようとする姿は、大きな犬に負けじと吠える子犬のようで、ちょっと「可愛い(笑)」なんて思ってしまいました。
明日海さんのビジュアルがあまりにも異質な存在感を放っているので、「その隣に並ぶ千葉アランは、どんな様子で来るのだろう」と思っていたのですが、とてもピュアでフレッシュな“思春期の男の子”らしい幼さが、エドガーの落ち着いた大人っぽさを際立たせ、友達として心を開いたエドガーだけに見せる“とろん”とした笑顔もなんともいとおしかったです。
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 撮影:岸隆子(Studio Elenish)
本作には、ほかにもエドガーを取り巻く個性的な人物たちが登場します。
エドガーたちが港町で出会う医師、ジャン・クリフォード役は中村橋之助さん。柔らかい話し方から感じる大人の余裕。キリッと上がった凜々しい眉毛は、とある現役のタカラジェンヌさんをお手本にされているとか。
序盤で老ハンナとして登場する涼風真世さんは、謎の霊能力者、ブラヴァツキー役としても活躍。凄まじいパンチで物語をかき乱していきます。(ちっちゃい子は泣いちゃう怖さ)
福井昌一さんは、登場しただけでピリっと空気が凍るような迫力の大老ポーと、いかにも異様な雰囲気の霊能力者、オルコット大佐を演じています。(同じ髭モジャなのに印象が全然違う!)
涼風さんと福井さんが別人のように2役を演じ分ける巧みさはさることながら、何役にも変身するアンサンブルキャストの皆様も凄い! 場面転換の多い中で素早く姿を変えて宝塚版よりかなり少ない人数でも違和感なく空間を埋め、作品に様々な色を与えてくれていました。(身体能力の高いキャストが多くてビックリ)
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 撮影:岸隆子(Studio Elenish)
終わりのない旅を続けるエドガー。そして、とある事件をきっかけに“孤独”の底に落ちて行くアラン。
「きみもおいでよ ひとりではさびしすぎる」
他人には入り込めないような固い絆で結ばれた2人の、柔らかくて神秘的な空気感に包まれるクライマックスシーンでは、見届けるこちらの心がふわっと溶けるような不思議な感覚に。同じ“孤独”を共有し、何百年の時を生きるエドガーとアラン。きっと今も、どこかで私たちと同じ時代を生き、いつかまた変わらぬ姿で私たちの前に現れる。そんな幻想さえも抱きました。
本作は、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演中。1月26日(火)まで公演された後、東京・東京国際フォーラムでも上演。加えて、1月23日にはライブ配信も実施予定。しかも、開演前には配信の限定特典としてエドガー役、明日海りおさんからのコメントVTRが! 巻き戻し再生は出来ないので、早めに視聴環境を整えておくのがオススメです♪
最後に…
“終わりがあることは美しい”という強いメッセージも感じる「ポーの一族」。
舞台を観ていると「この時間が永遠に続けばいいのに」なんて思ってしまうこともありますが、有限だからこそ感じる尊さや幸福があるんですよね。さびしい気もしますが、限りある時間を、貴重な今を思い切り楽しんで生きることの美しさを、バンパネラたちから学んだ気がします。
(文:越前葵)
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』
【原作】萩尾望都「ポーの一族」(小学館「フラワーコミックス」刊)
【脚本・演出】小池修一郎
【出演】
エドガー・ポーツネル:明日海りお
アラン・トワイライト:千葉雄大
フランク・ポーツネル男爵:小西遼生
ジャン・クリフォード:中村橋之助
シーラ・ポーツネル男爵夫人:夢咲ねね
メリーベル:綺咲愛里
大老ポー / オルコット大佐:福井晶一
老ハンナ / ブラヴァツキー:涼風真世
ジェイン:能條愛未
レイチェル:純矢ちとせ
(以下、男女五十音順)石川新太、大井新生、加賀谷真聡、鍛治直人、鯨井未呼斗、酒井航、高橋慈生、新原泰佑、西村清孝、松之木天辺、丸山泰右、武藤寛、吉田倭大、米澤賢人 / 伊宮理恵、桂川結衣、木村晶子、多岐川装子、田中なずな、笘篠ひとみ、七瀬りりこ、花岡麻里名、濵平奈津美、蛭薙ありさ、美麗
2021年1月11日(月・祝)~26日(火)大阪/梅田芸術劇場 メインホール
2021年2月3日(水)~17日(水)東京/東京国際フォーラム ホールC
公式サイト
ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』